17.03.2026
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Introduction
先生の「地震だー!」の合図で机の下に。そしてみんなで列になって校庭まで避難する。
学校でこうした訓練をした記憶のある人も多いのではないでしょうか。
いま、この訓練をアップデートする動きが出てきています。ポイントは「みずから考え行動する」。
東日本大震災をきっかけに始まった訓練はどういったもの?自分の家のどこが危険なの?手軽な訓練方法とあわせて紹介します。
抜き打ちの避難訓練 子どもたちが取った驚くべき行動
2017年、山梨県内のある小学校で、抜き打ちの避難訓練が行われました。
訓練が行われたのは休み時間。校庭では多くの児童が遊んでいました。
突然、緊急地震速報の音声が流れると、遊んでいた児童たちのほとんどが、走って校舎の中に入っていきました。児童は校舎の中に入って何をしたのかというと、教室に戻って、自分の机の下に隠れたのだそうです。
日本大学危機管理学部 秦康範 教授
「実際の地震では、校庭にいる児童の方が危険が少ないにもかかわらず、校庭に残った児童はごくわずか。多くの児童が、落下物など『危険が多い場所』にわざわざ戻ってしまっているんです」
児童がこのような行動を取った理由について、秦教授は次のように指摘しています。
「学校で行われる訓練の多くは、地震が起きたら机の下に隠れ、揺れが収まったら『おさない・はしらない・しゃべらない・もどらない』の“おはしも”の原則を守って、みんなで校庭に移動する。こうした行動がパターン化されてきました。 この訓練はみなさんの体にしみこんでいると思いますが、実際はこれだけで命が守れるわけではありません」
いつどこで起こるか分からない地震から命を守るためには、その時々の状況に合わせて対応できる力を養えるよう、訓練をアップデートすることが必要だということです。
避難訓練をアップデートしよう!4つのポイントとは?
埼玉県春日部市の幸松(こうまつ)小学校で、休み時間に行っているのが緊急地震速報を使った避難訓練。
この学校では2012年に緊急地震速報の端末を設置し、震度5弱以上の揺れが予測された場合、震度や到達時間を校内放送で知らせる仕組みになっています。
訓練でもこの端末を使って、事前に子どもたちに知らせず、抜き打ちで行っています。教師が子どもたちに行動を指示するのではなく、子どもたち自身で考えてもらうのがねらいです。
こうした避難訓練を始めたきっかけは、2011年の東日本大震災での経験でした。
震度5強の揺れを観測したこの小学校。当時は式典で児童が体育館にいたため、全員が無事でしたが、休み時間など教師が近くにいない状況でも、子どもたちが自分で判断して動けるように、訓練を始めました。
訓練が行われる前には、さまざまな場所で地震にあった時はどう身を守るのか、危険な場所はどこにあるのか、あらかじめ児童たちに考えてもらう時間も作っています。
先生「先生がいなかったら、どうしたらいい?」
生徒「カーテンを閉めてガラスの破片が飛び散ってこないようにします」
生徒「トイレは、個室のドアと入り口のドア、2つあって、どっちも開けておかないと閉じ込められる」
その後、突然始まった「抜き打ち」の避難訓練。
6年生の教室では、左端にいる女の子がカーテンを閉めています。窓ガラスが割れて飛び散らないようにするためです。児童たちはその場その場で瞬時に判断し、身を守る行動をしていたのです。
幸松小学校での取り組みを通して、秦教授は、避難訓練を行う上での4つのポイントを指摘しています。
「避難訓練のポイント」
① 抜き打ちで行う
② 緊急地震速報を利用する
③ 休み時間や清掃時間などに行う
④ 訓練の後に振り返りをする
1つめは「抜き打ちで行う」こと。地震は予告なく、突然起こるためです。
2つめは「緊急地震速報を利用する」こと。
揺れが来るまでのわずかな時間で身を守るために何をすべきか、瞬時に行動を判断する練習が大事だといいます。
ただ、緊急地震速報は地震の前に必ず発表されるとはかぎりません。震源が浅かったり、震源に近い地域だったりする場合は、速報が間に合わないことなど、特徴や限界についても、子どもたちに知ってもらうことが重要です。
3つめは、「休み時間や清掃時間などに行う」こと。
教師が近くにいない場面で、子どもたちが主体的に判断し、行動する状況をつくることができます。
そして4つめは「振り返り」です。
秦教授が特に大事だと言うのがこの「振り返り」。幸松小学校の訓練では、6年生の女の子がカーテンを閉めるといった行動を取っていました。
被害を最小限にするといった観点ではすばらしい行動である一方、緊急地震速報が鳴ったら、すぐに自分の身を守る行動をすることが何より重要で、カーテンを閉めるよりも、いち早く窓から離れた方がよいということです。
このように振り返ることで、自分の行動が正しかったか、間違っていたかを確かめることができます。
家でできるイメトレ訓練 危険が少ないのはどこか考える
避難訓練で大事なポイントは、大きな地震に遭遇した際、「危険が少ない場所はどこか」、「どういった行動をとればいいか」をイメージトレーニングすることです。
これは、学校や地域の避難訓練に参加しなくても、自宅や職場などでも行うことができます。
たとえば、東京消防庁のサイトでは、首都直下地震を想定して制作したVR映像が公開されていて、スマートフォンだけでも簡単に、地震の揺れを疑似体験できます。
これは自宅のリビングを想定した映像です。スマートフォンを上下左右に動かすと、部屋の様子が360度見えるようになっています。
まずは、地震が来る前の部屋を見回して、地震が起きた時、どこが危険かをイメージトレーニングします。
映像を再生すると、震度6強の揺れを体験することができます。テレビや棚が倒れたり、窓ガラスが割れたりします。
映像で起きている被害を、自分が事前にイメージできていたか、ケガをしないためにはどのような行動、対策をしておけばいいのか。あらかじめ考えておくことができます。
東京消防庁のサイトでは、自宅のほかにも、通学路や学校で地震が発生した時の映像を体験することができます。
日本大学危機管理学部 秦康範 教授
「こういった映像を利用して、皆さんがふだん生活している場所で突然揺れに襲われたことを想定して、その中で瞬間的に危険が少ない場所を見つけるイメージトレーニングするような習慣をつけることが大事です。 こういった習慣が身につけば、初めて訪れた場所でも“ここが危なそうだな”といったことをすぐに想像できるようになります」
ダンゴムシのポーズ 揺れから身を守れる?
イメトレ訓練で考える力を養ったうえで、実際に地震が起きた際には、どうやって身を守ればいいのでしょうか。秦教授によると、次の4つの行動が重要だということです。
「地震発生時の行動」
①危険が少なく、危険を捉えやすい場所へ移動を試みる
②揺れに耐える姿勢をとり、周囲を警戒する
③危険が避けられなければ、その場で防御姿勢をとる
④揺れが収まるまで周囲の状況に合わせ安全を確保し続ける
地震の揺れに対して、どんな姿勢であれば、身を守ることができるのか、秦教授の監修のもと、地震の揺れを手軽に体験できるマットを使って検証してみました。
揺れに耐える姿勢として、教育現場の避難訓練で指導されることが多いのが「ダンゴムシのポーズ」。
床にしゃがみ、頭を抱えて体を丸める、頭を守るための姿勢です。地震マットを使って震度6弱の揺れを再現し、この姿勢をとってみます。
ダンゴムシのポーズでは、床に手がつかないため不安定で、体験した男性は、あっという間に転がってしまいました。
秦教授によると、地震の際、転がってしまうと、まわりにある家具にぶつかったり、落下物から身を守る姿勢を維持できなくなったりするということです。
また、頭を下にして丸まっているため、周囲の状況が見えず、危険が迫っているかどうか把握することができません。
続いて検証したのが、ひざ立ちして両手を床につける、カエルのようなポーズ。この姿勢だと頭を上げて周囲の様子を確認することができます。
秦教授によると、このポーズのメリットは、揺れているさなかでも、このポーズのまま、マットの外へ移動することができる点だということです。
頭上に落下物がある場合は、揺れの中でも移動を試みる必要があるからです。さらに、腹ばいになってトカゲのように移動する方法もあるということです。
ダンゴムシのポーズは、落ちてくる物から瞬時に頭を守る方法としては有効ですが、落下物を避けて移動することが必要な場合には、別の姿勢で身を守る方法も考えてみましょう。
日本大学危機管理学部 秦康範 教授
「教育現場ではよく、“揺れたらダンゴムシのポーズ”と教えることが多いですが、これが身を守るための唯一のポーズというわけではありません。 地震に遭遇する場所が違えば、そこに潜んでいる危険も違います。その場所での危険を自分で見つけ、身を守るための姿勢を取れるようにすることがポイントです」
子どものうちから自分で考え、行動してみる習慣を
避難訓練のアップデートで大事なのは、自分で考えて判断し、行動してみることです。
避難訓練の現場を取材していると、学校関係者から「地震が起きた時にどう行動するか、子供たちが自分で考えるのは難しい。大人が行動を指示するべきだ」といった声を聞くことがあります。
しかし、大きな地震が発生した時にとるべき行動は状況によって異なり、正解は1つではありません。大人でも誤った判断をしてしまうことがあります。
だからこそ、子どものうちから、防災について「考える」習慣をつけることが重要だと思います。
たとえば、大人と子どもが一緒に通学路を歩いて「どこに危険があるのか」話し合う。未来へと続く命を守るために、まず、やってみてはいかがでしょうか。